丸堂紅白 メス2才 55cm
商談中
 池揚げの日の朝、僕は丸堂さん家で興奮して眠れぬ夜をようやくの思いで過ごした所だった。
 丸堂さんチームスタッフと僕らを含めたなじみの買い付け業者数人で池揚げに向かう。池は柿の養殖団地にあるという、震災後に作られた人工池だ。初めての池は不安もあるが、それよりも今年の鯉の出来具合に期待が膨らむ。
 池に着くころには、水も引いてあり、いつでも池揚げスタンバイOKだ。手馴れた手つきで準備を進める丸堂チーム。期待と腹を探り合う業者チーム。それぞれの思いが泥の中でうごめく錦鯉たちに注がれているのだ。
 やがて地引網に寄せられて集まった鯉がチラホラ見え隠れしてくる。池の土手から見ればどれも素晴しいツヤで赤も黒も白もまさしく原色の輝きだ。
僕はお客様のオーダーを思い出す。「体のいい紅白を持ってきてくれ」それだけだ。予算もガラの注文もサイズに関しても一切無い。信頼されているといえば聞こえは良いが、気に入らなかったら買ってもらえないだけだ。僕らは僕らの想うベストの鯉を提示するしかない。
 やがて袋に詰められた錦鯉が次々とやってきた。僕は袋ごと受け取り、荷台に乗せたオケに次々放していく。じっくり鯉を見たいという欲望には駆られるがまずはお手伝いだ。次々くる鯉を捌きながらチラッチラッと鯉を見定める。
ウチの社長を含め数人の業者はオケからコンテナに移されていく鯉を凝視している。表情にはまったく出さないが皆いろいろな想いが頭の中を駆け巡っているに違いない。
 ・・・一瞬ドキッとなった。チラリと見えただけだが素晴しい紅白だ。模様も良くわからないぐらいの一瞬だったが、確かに何か引き寄せるものがあった。体型?白地?紅質?とにかく何かが良かったのだ。ほかの皆はどんな顔してる?よくわからない。表情に変化は無い。思い違いかな?まぁいい。後でじっくり探そう。はやる気持ちを抑え、すべての鯉がコンテナに入るまで作業を続けた。
 社長と共にコンテナを覗き込む。500?のコンテナに50匹以上もひしめき合っているのだからよく見えない。それでも1番はコレ、三色ならコレ、昭和なら・・・と品定めしていく。先ほど気になった紅白はすぐに解った。一匹だけ異彩を放っているように見える。体もガラも肌も紅質もすべて良いように思えた。コレだ。自分に決定権があるわけではないがつれて帰るのはこの鯉だと心に決めていた。
 そうは言っても、買うも買わずもくじ引きしだい。1番くじなら間違いないが、2番手以降なら運しだいである。ひょっとして紅白取られたらあの三色かこの昭和にしようか、しかしオーダーは紅白だった、紅白の中から選ぶべきなのか・・・めまぐるしく頭を回転させながら、鯉はいよいよ販売の地、ハウス池へと運ばれていくのだった。
 ハウス池では別の業者が10人ほど集まっていた。いよいよくじ運次第では買わずに帰ろうか、となりかねない。オスメスを見ながら次々に池に放される鯉を見ながら社長とすばやく話し合う。候補の何匹かはオスになってしまいさらに候補は絞られていく。というよりもあの紅白しかない。強い決意を持ってくじ引きに挑む。自分は決定的かつ圧倒的に運が悪いので社長にくじを引いてもらう。
2番。
ヨッシ!と想ったが1番の業者が掬えばお終いだ。1番が動かす網を平然とした顔をしながらも、ありとあらゆる神様にお願いした「頼むから掬わないでぇ・・・」

そんな想いで手に入れた紅白です。ただいま商談中です。ご興味のある方はご連絡ください。現在は当店にいますが11月中には新潟に送り返します。
丸堂紅白の真髄ここに極めり